生体分子を捕まえたり,計測するためのツールのうち,レーザートラップを前のページで説明しました.
別の手法が,ガラスマイクロニードルを用いた手法です.
この手法は,かなり昔から行われています.
原理は簡単で,
ガラス棒を引き延ばしたものを釣り竿のようにして使う
ものです.
ガラスは熱するとかなり細くすることができ,一番先端の部分は1ミクロン以下にもなります.
このガラスニードルを使って,細胞や生体分子をいじったり,捕まえたりすることができます.
一番なじみのあるものは,人工授精の映像でしょうか?
卵子を太めのニードルで捕まえ,とがったニードルで卵子に突き刺す,こんな映像を見たことがある人は多いでしょう.
このようにして,ガラスニードルでミクロンオーダーの生物をいじることができるのですが,さらに,
力計測
にも使えるのです.
釣り竿をイメージしてもらえればいいと思いますが,
魚が釣り竿を引っ張り,釣り竿がしなる,そして元に戻ろうとする
そう,バネと同じ機能を果たすのです.
ガラス棒をうーんと細く引き延ばすと非常に柔らかいバネばかりになるので,魚を生体分子に置き換えれば,ガラスニードルで生体分子の力や変位を計ることができます.
その大きさは,ピコニュートン,ナノメートルのオーダーです.
なぜ,ピコニュートン,ナノメートルのオーダーのオーダーで計れるのか?は次のページで説明します.
では,説明した二つの計測方法,どのようなメリット,デメリットがあるのでしょう?
・操作性
これは,レーザートラップに軍配が上がります.
ガラスニードルを作るのは手先が器用でなくてはなりません.
残念ながら,市販では売っていません,自分で作ります.
大変なのは,たわみの弾性率,をきちんと見積もらなくてはならないのです.
さらに,時間分解能をあげるには,うーんと短いニードルを作る必要があります.
それに比べて,トラップ用のビーズは市販のもので十分.
サンプルに混ぜるだけ.
・光学系
ガラスニードルは特別なものはいりません.
明視野か位相差があれば十分です.
その点,レーザートラップにはトラップ用の専用のレーザーが必要となります.
トラップ以外の光学系,明視野や蛍光,などとかぶらないようにすることが必要となります.
・時間分解能
時間分解能は,プローブのサイズに依存します.
大きければ大きいほど,周囲の自ら受ける粘性抵抗が上昇し,時間分解能が落ちます.
単純な体積ではないので注意が必要ですが,その話は別の機会に.
ともかく,単純な時間分解能の比較では,レーザートラップが勝ります.
しかし,喜多村君の論文のように,単純ではないのがこの世界の難しさです.
・弾性率
これは,ニードルの勝利です.
単純に太くするだけですから.
レーザートラップにおいてトラップ力をあげるには,一番は
レーザー強度を上げる
のですが,それも限界があります.
・回転
これが一番のレーザートラップの弱点です.
ガラスニードル,レーザートラップ,ともに,三次元の位置を制御できます.
ガラスニードル : 三次元は均一
レーザートラップ : XYは均一,Zは異なる
というように理解できますが,
回転方向に関しては,原理的に,
ガラスニードル : 制御可能
レーザートラップ : 制御不可能
です.
もちろん,レーザートラップでも
回転力を与える
ということは可能ですが,
回転を止める,バネのように扱う
ということは現在のところ,非常に難しい課題です.